マレーシアから留学中のコン スエ ケイ(Kong Suet Kei)さんは、4年前に来日し、東京工業大学で修士課程から博士課程に進み、現在2年生です。「人生は大変だし困難なこともたくさんあるけど、その合間にも毎日を楽しみたい」と明るく話すコンさんは、多忙な研究生活のかたわら、「公園が多くて、みんな優しくて礼儀正しく挨拶してくれる」と大好きになった大田区での日々を満喫しています。
― 出身は多民族国家のマレーシア
コンさんは、4世代前に中国の広東地方からマレーシアに移ってきた仏教徒の中国系ファミリーに生まれました。首都クアラルンプールから100kmほど北にあるペラ(Perak)で育ちました。
マレーシアは、古来交通の要所で貿易が盛んであり、現在もマレー系、中国系、インド系などが暮らす多民族国家です。公立学校も、マレー語、タミル語(インド系)、中国語、英語の学校から選択でき、こどもの頃から多言語を学ぶそうです。
「こどもの頃は、両親と祖父母、叔父、姉、弟の大家族で暮らしていました。両親はとても忙しくて、祖母が私の面倒を見てくれました。」ご両親は鶏肉のビジネスを行っています。「だから家にはとても新鮮な卵がいつもたくさんありました。今でも目玉焼きとかの卵料理が大好き。」
ビジネスウーマンのお母さんは、「とても独立心の強い人でこどもにも執着しません。私にもまったく電話をかけてこないし、進学やボーイフレンドのことなどもすべて私に任せてくれます。私の考え方や性格には、母の影響がたくさんあります。」
温かさと信頼関係がありつつ、各自がそれぞれ自立している家族と育ったことが、コンさんの豊かな知的探求心や冒険心のベースになっているようです。
― バクテリアを研究中
ペナン(Pinang)の大学ではバイオテクノロジーを専攻。もっと基礎的な生物学を研究したいと生物の基礎研究が盛んな日本を留学先に選び、東京工業大学の修士課程に入学し、現在博士課程の2年生です。研究対象はバクテリア。コンさんの研究チームは、シロアリの腸内に存在するバクテリアを調べることで、その性質を研究しています。
『人食いバクテリア』などのように怖いイメージもありますが、「バクテリアは病気の原因となるなど悪いことも起こしますが、発酵や有害物質の分解などで役に立つ面もたくさんあるんですよ」という説明から、自分の研究課題に誇りをもっていることが伝わります。
― 日本での生活をエンジョイ
「日本には四季があって、春夏秋冬の変化を味わっているうちに4年経ってしまいました。」9月から博士課程3年生になり、いよいよ卒業論文の準備も本格化するそう。
「今もとても忙しいです。研究して、論文を書いて、他の人の論文もたくさん読んで、分析して…。」平日は朝から夜まで大学で過ごします。
「でも、私はそれだけではいられないタイプ。休日はしっかり楽しみます!」と笑うコンさんは、週末には、旅行、ベランダでのガーデニング、友人との外出や、GOCAのイベントに参加したりしています。
「GOCAのホームビジットでは、日本のおうちの中を見られて楽しかったです。炬燵があったり、キッチンがリビングから見えるところにあるのもマレーシアとまったく違うんです。」
旅行先も「外国人が行くところより、日本人がたくさんいるところを選びます。その方が日本人の本当に好きな所を知れるから。」「長野でのカーリング体験、浴衣を着た七夕祭り、来日した姉夫婦と見た花火大会などもとても楽しかったです。」草津温泉では、何も着ないで知らない人と入浴することが初めは恥ずかしかったけれど、温泉が大好きになったので、大田区の黒湯もぜひ試してみたいそうです。
「住んでいる地域は、とても静かで環境がいいし、周りの人たちもみんな優しくて礼儀正しいです。大学への行き帰りにも、保育園のこどもたちやいろんな人が、『おはよう』、『こんばんはー』とか挨拶してくれる。夕方にはシニアのご夫婦が手をつないで散歩していたり、あちこちに公園がありこどもが遊んでいたり、そんな雰囲気がとっても好き。」
「日本は街が清潔で設備も整っているだけでなくて、国民性が素晴らしいです。部屋の外に置き配しても盗られないなんて他の国ではありえない。横断歩道を渡ろうとすると車が止まってくれる。駅では車椅子の方が乗り降りを手伝ってくれた駅員さんに『ありがとう』と言ったり、みんな礼儀正しくて、いつも『ありがとう』と感謝する気持ちを持っていることがすばらしいです。」
コンさんに感動してもらえた日本と大田区の良さをこれからも残さなくてはと思いました。
― これからも自分の選択を大切にしたい
英語、中国語、マレー語、そして日本語も使いこなすコンさん。大学院卒業後は、どの国へ行くか、企業に勤めるか、または研究を続けるか道はまだ決めていません。「研究は大好きだけれども、それだけでは満足できないと思う」と冷静に自分を分析しています。
「人生にはいろんな選択肢があります。自分の人生を、仕事に何パーセント注ぐか、家族や、趣味や夢中になれることにはどれだけどう使うかは、自分で決めることだと思っています」と意志的に語りながら、「そんな考え方はお母さんの影響かな」とにっこりしました。
「私は休日を楽しんだり、いろんな人に会ったりすることが好きで楽観的だけど、人生は大変で困難なこともたくさんあることも知っています。でもその間にも毎日をできるだけハッピーに過ごしたいと思っています。自分が満足できる人生にするためには、人の判断に委ねることはできないから、自分自身で選択することが大切と思っています。」
将来の道の選択肢には、日本の企業でのバイオ研究も含まれているそうです。コンさんがこれから、多彩な能力を活かしてどのような道を選択していくのか楽しみです。
― インタビューに感謝!
「まだ日本で行きたい所がたくさん、沖縄や北海道、大阪にも行きたいし、ディズニーシーには絶対に行きたい。日本の食事では豚骨ラーメンがとっても好き」と笑って話すコンさんは、難しい研究と楽しい日常生活をバランス良く両立させて、人生を楽しむ方法を知っているのだと感じました。コンさんと話すことで、たくさんのパワーをいただきました。ありがとう!
(隣の外国人実行委員 今宮節子)