ウ シセンさんは、中国の北京朝陽から留学生として来日されました。
大田区に住み始め、程なくして、ご自身の出身地である朝陽区と大田区が友好都市(1998年から友好都市、交流は1976年に遡る)関係であることに気づき、大田区に関わる活動をしたいと思うようになったそうです。
ウさんは、これまで協会が行う様々なイベントでボランティアとして活躍しており、「自分の言語力を活かしつつ、人の役に立てて嬉しい」と語っています。
そんなウさんに大田区での生活について伺いました。
大田区の自然と日本の四季に魅せられて
「四~五世紀に活躍した中国の詩人、陶淵明の詩に「菊を采(と)る東籬(とうり)の下、悠然として南山を見る」という有名な一節があります。俗世間から離れ、心にもの思うことなく自然を楽しんで生きる心情を表した詩です。私自身、大田区に来てからこの詩をよく思い出します。
大田区は都市部でありながらも自然豊かで、それこそが私が大田区に住み続ける理由だと思います。以前は、都内の別の場所に住んでいましたが、周りに私が大好きな自然が少なくて。
例えば、大田区には多摩川や街中を流れる呑川があります。私自身、自然の中でも特に川が大好きなんですが、川は季節によっても日によっても違って見えますし、川の色が同じことはありません。私の大好きな多摩川は天気がいいと富士山が見えます。
あと、日本の四季もとても好きなんです! 例えば、日本の春は、桜を見ながら春を十分味わった後に夏が来るので、季節の移り変わりを楽しめます。私が住んでいた北京では、四季はありますが、日本よりも春と秋が短くて、春を楽しむ前にすぐに暑い夏になってしまいます。」
(写真:夕暮れ時の多摩川)
お休みの日は何をされていますか。
「舞台が好きで、ミュージカルをよく観に行きます。一番最近観たミュージカルの主演は宝塚の方でした。
チケットを買うときは、いつも「なんでこんなに高いんだろう」と思うことが多々あります。でも、舞台が終わり演者に拍手をしていると、「来てよかったなあ、高いお金を払ってよかったなあ」としみじみ思ってしまいます。」
「また、小さい頃からバイオリンをやっていて、日本の大学院に通っていた時はオーケストラに入っていたこともありました。今でも時々バイオリンを弾いたり磨いたりすることがあります。
時々、川辺でひとり管楽器を練習している男の子とかいますよね、こっそりと。私自身でやる勇気はないんですが。最近は、気分転換で弾いたつもりが、昔と比べて下手になったなあ、と自分にイライラしています(笑)」
(写真:バイオリンの練習の様子)
ウさんの素敵なバイオリン姿、奏でる音色、是非想像してください!
さて、今までの日本滞在を振り返っていただきました。
「日本にいる中国人の友達は、日本のアニメやドラマを観るのが好きで日本に来たという人が多いです。私自身も、ジャニーズのHey! Sɑy! JUMPのコンサートが見たい、というのが最初に日本に興味を持ったきっかけでした。ただ、コンサートを見るためだけに日本に来るのは嫌だったので、どうせなら日本に留学しよう、と思うようになりました。
そして、20代前半の頃、日本への留学が決まった当初は大学院を卒業するまで日本にいよう、未来のことは卒業したらまた考えようと思っていました。ただ、運よく自分が満足いくセキュリティエンジニアという仕事が見つかったので、日本に残ることにしました。
セキュリティエンジニアは、お客様のインターネット環境やネットセキュリティに関する要望を伺ってから、お客様と一緒に最適なセキュリティ環境・サービスを考える仕事です。お客様の役に立っていると実感が持てるので、とてもやりがいがあります。」
ウさん自身は、自分のやりたいことをやり放題やってきたと言いながらも、誰かの役に立ちたい、やるからには中途半端ではなく一生懸命やりたい、といった純粋な気持ちが彼女の生き方の源泉にあるような気がします。
いよいよ、これからのことに話は向かいます。
「就職する時にいろいろな質問をされました。その時初めて、自分はなぜ日本に残りたいのか、なぜこの会社で働きたいのか等を真剣に考えるようになりました。中国に帰らず外国に残るということが自分の道にあうかどうか。
自分の国から出て外国に住んでいると、視野が広がり、以前とモノの見方が変わってきます。ただ、その国に長くいると、その見方にも慣れてきます。なので、最近は、別の国ではどうだろう?と思うことがあります。例えば、日本でこうだったけど、スペインではどうだろう、アメリカではどうだろう、といった感じです。様々な国の生活を味わってみて自分なりの価値観を見つけることは良いことだと思っています。
もちろん、ひとつの場所に住み続けると安心感が増します。同時に、安心しすぎてリスクをおかさず冒険をしたくない気持ちになったり、日々の生活に危機感を持たなくなったりすることもあります。
ただ、以前のように、好きなアイドルのためだけに外国に行くような勇気はありません。今現在の安定した毎日に慣れてしまうと、新しいことにチャレンジしたりリスクを冒したりする勇気がなくなってきているようにも感じます。」
日本の「距離感」が好きなんです!
最後に、「そんな日本の一番好きなところは?」という質問をしました。
「日本での距離感が一番好きです。例えば、中国だと、同じ建物(アパートやマンション等)に住んでいる誰もが、他の住人のことはもちろん、他の家で何が起きているかも筒抜け状態です。確かに安心感はありますよね。だって、知らない人が建物に入ったらすぐ分かっちゃうわけだし。
私の両親や友達もこういった中国の距離感が好きなのですが、私自身は苦手なんです。日本に住む中国人の友達は日本のこの距離感に慣れない人もいますが、私にとっては、日本のこの距離感はすごく心地よくて、リラックスしています。」
あとがき
インタビュー中は、終始「本音で話しちゃって本当に大丈夫ですよね?」と笑いながら答えてくれたウさん。
なんと言っても日本語がお上手で、インタビューをしていた私が真似してみたくなるほど、日本語の言い回しがチャーミングでとても魅力的でした。
何より、今回のインタビューを通して、ウさんがグローバルに活躍される方であることを確信しました。
最後に、ウさんが大事にしている「距離感」を保てただろうかと祈りつつも、記念撮影にうつりました。
がんばれ ウさん! そして、ありがとうございました!
「隣の外国人」実行委員 横田 泰英